第1回 各キャストのシナリオへの導入はどうやっているのか
 

 シナリオのタイプにもよりますが、ここでは、俺がやった事のある、肉体戦闘メインのシナリオの導入方法について、俺なりの方法を述べさせていただこうと思います。

 これは、俺がいつもコンベマスターを行うときメモっておく事で(隔週で札幌をマスターとして飛び回っていた頃は、こんな書いてる暇はないです)、これがあればある程度のアドリブをたやすく行えるようになります。

 企業間シナリオやトロンシナリオも、これの応用が利くはずですし、複合シナリオにおいてもまた同様であると思います。

 手前味噌ながら、俺がTNRのルーラー(TNRのマスターの事)をやったときに使ったシナリオの抜粋を用いて説明する事にしましょう。

 なお、このシナリオは、板橋しゅうほうのコミック、スリックスターのギミックをつかわせていただいた事を、ここに記しておきます。


ここでは、ストーリーの概略を説明します。

一応、題名ですが、“Virus”です。念の為。

プロローグ

 PM10:12。レイド&ルーラー益世狗、京谷光義。ウェットシティー。

「ねぇ、あなた、R&Rの京谷さん?」

 と尋ねてくるコールガール。

「そうだが……」

 いきなり抱きつくコールガール。

 京谷の視界に、一人の人間の姿がよぎる。そいつは、笑顔を浮かべつつ手を振っていた。

「!! 貴様……」

 突然胸を押さえ、苦しみ悶える京谷。コールガールの悲鳴が響いた。

  

ストーリーライン

 京谷光義の突然の心臓発作は、一切が謎とされていますが、R&Rの一部では死亡原因がはっきり認識されています。

 この心臓発作の原因は、R&R直属の研究室で開発されていた暗殺細菌で、京谷はその細菌によって殺されたのです。

 正式名称も決まっていないこの細菌は、暗殺対象の遺伝子をその暗殺細菌に取り込ませることにより、その対象だけを殺す病原体となるというもので、他の人間にはまったく効力を持ちません。感染経路は空気感染です。

 対象を殺すと、細菌は速やかに消滅してしまいます(対象となる人間以外の体に潜伏したら、細菌は約五時間後に死亡)。

 この細菌を持ち出したのは、研究員の月村芳樹。彼は、もともとR&Rの研究員ではなく、半ば強引にヘッドハンティングされた人間でした。

 R&Rが望んだ特定の人間を殺すことができる細菌も、もとは癌を死滅させるための対癌細菌の製造にありました。それにR&Rが目をつけ、ヘッドハンティングを行ったのです。

 研究から数ヶ月、月村芳樹は望まれた暗殺細菌を完成させました。そしてその細菌を持ち出すと同時にR&R研究所に残っている暗殺細菌の一切のデータを消去し、R&Rの人間を殺し始めたのです。

 当然ながら、R&Rは追っ手を放ち、月村の暗殺を行いますが、既に彼は自殺していて、暗殺細菌の培養装置も何者かに持ち出されていました。

 投喜居による、不用意な暴露記事もあいまって――直後に、その投喜居はR&Rに暗殺されてしまうのですが――N◎VAは次第に混乱の様相を呈してきます。

 犯人は、月村芳樹の娘の陽子です。父にも勝ると言われる彼女は、父の遺言により、暗殺細菌を知る人間すべてを殺した後、自殺するつもりです。

 しかし、この暗殺細菌の情報を手に入れたN◎VA軍は、暗殺細菌の培養機と、月村陽子の確保に動き出します。

 念の為書いておきますが、コンベンションでは諸々の事情により――白衣フェチっぽい人の無言の圧力、ともいふ。陽子さんは、白衣に黒メッキされた極細チタンフレームの眼鏡をかけています――にけおされたのと、このまま陽子さんを悪者にしたら、何か恐ろしい事が起こる、と予感してしまったため、緊急にストーリーを差し替えて、殺して回った人間はドロイドである事にしました。

 いきなり萌えられるとは……げふぅ。予想外であった。


 ストーリープロットは、以上の通りです。

 俺の場合、ここで関わるだろう、キャストのタイプについて考えます。一応、益世狗タイプ、歌舞伎、狩魔、拝乱駄、新生路タイプに関しても考えておきます。もし万が一、ということもありえるわけですから。

 ここに書いてあるのは、オープニングフェイズについてです。CTは、キャラクタータイプの略です。

 

CT護衛
 R&R益世狗の護衛、しかし、途中で護衛対象を殺してしまう暗殺細菌に感染していた彼女は、結果的に護衛対象を殺してしまう。
CT護衛2
 月村陽子からの護衛依頼。
CT投喜居
 謎の殺人(?)事件の多発、その被害者がR&Rの益世狗……背後にきな臭い匂いを感じた彼(彼女)が調査に乗り出すよう誘導。
CT暗殺
 R&Rから月村芳樹に関係する、陽子以外の人間の暗殺の依頼。可能なら、陽子の捕獲を依頼。
CT探偵
 月村陽子失踪の依頼。依頼者は、研究所の所員。
CT医者
 最近流行している原因不明の病気の調査依頼。月村芳樹(陽子)との知り合い、という事にしておくと吉か?
CT賞金稼ぎ
 月村芳樹、あるいはその肉親にかかっている賞金の情報を渡す。
CT歌手(歌舞伎)&拝乱駄&真似衿
 暗殺細菌の感染経路の一人となってしまう。他のキャストの知り合いとしておいて、そこからなんとかストーリーに絡める
CT益世狗&黒幕&新生路&舞貴人
 暗殺細菌の情報を手に入れる。あとはプレイヤーと協力してストーリー展開。
CT犬 
 原因不明の死亡事件の調査。ブラックハウンドの場合も同じ。

 

 こうして前もって、想定されるキャラクタータイプを書き出し、どのような導入でいくか書いておく事により、ある程度、アドリブを行うときの余裕をもっておくのです。

 これは、シナリオを作る事よりも難しい事ではないと思います。

 この後、キャラクター同士の絡め方とかもありますが、これはコネをとらせておくことにより、自ずと解決される場合が多いはずです。

 その時、キャストの立場を考え、展開させやすいようにコネをとらせておけば、なおいいでしょう。

 要は、キャストの登場、あるいはシナリオへの絡ませ方は、料理と同じく下準備に要点がある、と考えています。

 それを事前に行わないルーラーは、てなれていないかぎり導入は強引で、プレイヤーに不快感を与えてしまう場合が多いと思われます。

 アドリブが必要な場所はおおよそ推測できるわけですから、その部分で起こるだろう事を推測し、その場面に至るストーリーや、そこから派生するストーリーをあらかじめ限定してしまえば、アドリブは楽になるものです。

 つまり、アドリブが必要な場所におこりうる状況を、はじめから限定してしまえばよいのです。

 シナリオを進めていく上で発生する細かなアドリブに対してまでは、対抗策を講じる事は出来なので、これはもう、なれるしかありません。

 予測以外の行動をしてきた場合は、逆に言えばそこに書かれている、あるいは想定していた状態以外ですから、数も限られているわけで、対応もそれほど難しくは無いと思います。


 おまけとして、この企画のきっかけとなったメールフレンドのくぅがぁさんのやり取りの一部を抜粋しようと思います。少々乱暴な言葉遣いが見うけられますが、そこのところはご勘弁。

 

今回のテーマとなったキャスト登場シーンについて

くぅがぁ「各キャストのシナリオへの導入をどうやっているのか気になるところです(どこのテーブルでも、強引で中途半端なケースが多い。 ひとのこと言えないけど)。うまくキャスト同士をつなげていくコツはないでしょうか。」

ぽんず「ほとんどの場合アドリブですが、プレイヤーの協力も必要です。TNRは、自分から積極的にほかの人のシーンに入り込み、経験値を稼ぐというルールですからね」

くぅがぁ「非協力的な人もいますし、他人のシーンに口出しして自分の有利な方向に誘導する人もいれば、キレて暴走する人もいます。そして困ったことにやたらと攻撃的な人も・・・(T_T)」

ぽんず「数々のシーンにでまくって、目立ちまくって、ルーラーのストーリー進行を助ければ、ルーラーは当然そのキャラクターをストーリーの中心に添えようと考えるはずです。

 絶対そのほうが楽ですからね。

 それをやらず、ぶーたれてる奴は、流浪のコンベンションマスターである俺にとっては、馬鹿じゃないの? 自分から行動をせずに、面白いところだけをかっさらおうなんてのは、下の下だと考えているわけです」

 

 つまり コンベンションマスターは、基本的に自分が楽しむ以上に、相手に楽しんでいただく、と言うものであると心得ていますが、地べたに座って飴玉を欲しがるような、だだっこまで面倒を見る余裕はないのです。

 プレイヤーの方々も、ルーラーに協力してストーリー進行を助けたり(トータルエクリプスにおける遠藤さんのように、ですね)、プレイヤーを助けてあげて欲しいと思います。

 もっとはっきり言わせていただければ、コンベンションは参加者同士が、紳士的に楽しみ会う社交の場である、ということです。

 それを念頭において、コンベンションに参加してみてはいかがでしょうか。

 あんまり我侭は言わないほうがいいと思いますよ。いつまでも相手が大人しい人ばかりとはかぎません。牙をむく人間だっているんだから。いるんですよ、そういう人は確実に。

 そして、そういう人に限って、コンベンションの主催者側に顔が広くて、実地で社会戦をしかけてくるかもしれません。

 どのコンベンションでもID剥奪(Xランク……コンベンション参加禁止)というダメージ、うけたくないでしょ?

 痛い目見る前に、他人のことを考えられる人間になろうよ、ね?

 それでは。